採算が合わない案件は検収前に分かる|3 つの予兆と計算例、赤字を止める順番

公開日 更新日 収支管理 Leead Magazine 編集部
採算が合わない案件は検収前に分かる|3 つの予兆と計算例、赤字を止める順番

採算が合わない案件は、検収後に集計して初めて分かるものではありません。進行中に 3 つの予兆が出ます。工数消化率が進捗率を上回る、時間当たり採算が時間単価を割る、見積外の作業が増える。 この 3 つを月次で見る仕組みがあれば、赤字は終わってから分かる結果ではなく、途中で手を打てる見込みになります。

対象は受託開発・SES・Web 制作・コンサルティング・広告制作のようなプロジェクト型ビジネスです。採算という言葉そのものの意味は「採算とは?意味・使い方・計算方法」に、会社全体の採算管理の考え方は「採算管理とは?」に書いてあります。ここでは 1 つの案件に絞ります。

採算が合わない案件とは

案件の粗利 = 売上 −(人件費 + 外注費 + 経費)

この粗利が完了時点でマイナスになる、またはそう見込まれる案件が採算の合わない案件です。不採算案件、採算割れ、赤字案件。呼び方は違っても同じ状態を指しています。

見落とされるのは人件費です。外注費や経費は請求書や精算で案件に紐づきます。社員の人件費は、誰がどの案件に何時間使ったかを記録しない限り、どの案件のコストにもなりません。売上 150 万円で外注費 0 円の案件は、工数を見なければ粗利 150 万円の黒字案件に見えます。360 時間かかっていて時間単価が 5,000 円なら、人件費は 180 万円。35 万円の赤字です。

採算の合わない案件が会社全体の損益計算書に隠れてしまうのは、この人件費が案件に配賦されていないから。それだけです。

赤字が終わってから分かる理由

日経コンピュータの IT プロジェクト実態調査 2018 は 1,745 プロジェクトを調べて、スケジュール・コスト・満足度の 3 条件を満たした成功を 52.8%、失敗を 47.2% としました。コストが超過したのは 20.9% で 365 件。理由を複数回答で聞くと、追加の開発作業が発生したが 64.4%、追加の設計作業が発生したが 53.7%、見積もりが甘かったが 37.3%。最大の要因を 1 つだけ選ばせると、追加の開発作業 31.2% に続いて見積もりの甘さが 19.7% で 2 位に上がります。

5 件に 1 件はコストが超過し、その大半は見積に入っていない作業か、見積そのものの甘さが原因です。見積外の作業は着手時点には存在しません。進行中に発生して、進行中に積み上がる。だから見積時の粗利計画をどれだけ精緻にしても、進行中に見込みを更新しなければ赤字は検収後にしか分かりません。

弊社の導入事例でも、Excel で案件ごとに別シートを管理していた IT 企業は、全体像の把握が難しく締め作業に 2 日かかっていた、と振り返っています。締めに 2 日かかると、締めた数字を見て手を打つ前に翌月が来ます。

進行中に出る 3 つの予兆

工数消化率が進捗率を上回っている

最も早く、最も確実に出ます。

工数消化率 = 投入時間の累計 ÷ 見積工数 進捗率 = 完了した作業の割合。成果物ベースで見る

消化率が進捗率を上回っていれば、残りの作業を残りの工数では終えられません。差が 10 ポイント以内なら誤差。20 ポイントを超えたら警戒。30 ポイントを超えたら、着地は赤字だと思ってください。

月投入時間の累計消化率。見積 240h進捗率差判定
1 か月目80h33%30%+3pt誤差
2 か月目150h63%45%+18pt注意
3 か月目200h83%50%+33pt赤字見込み

3 か月目に残っている作業は 50%、残っている工数は 40 時間。このペースだと完了までに 400 時間かかります。

時間当たり採算が時間単価を割っている

人件費の大半が社員の時間である業態では、1 時間の投入がいくらの利益を生んでいるかが採算の物差しになります。

時間当たり採算 =(売上 − 外注費 − 経費)÷ 投入時間

これが社員の時間単価を下回った案件は、時間を使うほど損失が膨らみます。時間単価は給与だけでなく法定福利費と間接時間を含めた実質の単価で、給与 40 万円の人なら実務上 4,000 円から 5,000 円になります。

上の案件を売上 150 万円、外注費 0 円、経費 5 万円、時間単価 5,000 円とすると、着地見込み 400 時間での時間当たり採算は 145 万円 ÷ 400h で 3,625 円。時間単価を 1,375 円下回っています。1 時間働くごとに 1,375 円の赤字を積んでいる状態です。

見積外の作業が増え、検収が延びている

数字より先に現場で見える予兆です。

  • 見積に入っていないちょっとした修正、追加の打ち合わせ、仕様の確認待ちが毎週発生している
  • 成果物の検収が予定月をまたぎ、売上の計上が遅れている。売上は翌月、費用は当月に立つので、帳簿上の赤字が一時的に膨らむ
  • 当初の担当者が別案件に引き抜かれ、引き継ぎに工数が出ている

日経コンピュータの調査でコスト超過理由の 1 位が追加の開発作業だったように、この予兆はいずれ最初の 2 つの数字に現れます。現場でこの兆候が出たら、月次を待たずにその週に投入時間と進捗を確認してください。

計算例。見積時は黒字、3 か月目で赤字に転じる案件

「プロジェクト収支管理とは?」の計算例と同じ前提、時間単価 5,000 円で、1 つの請負案件の推移を追います。

項目見積時3 か月目の着地見込み
売上。請負で固定1,500,000 円1,500,000 円
工数見積 240h着地見込み 400h
人件費。時間単価 5,000 円1,200,000 円2,000,000 円
外注費0 円0 円
経費50,000 円50,000 円
粗利250,000 円、16.7%▲550,000 円
時間当たり採算6,042 円/h3,625 円/h

見積時は粗利率 16.7% の黒字案件でした。3 か月目に消化率と進捗率の差が 33 ポイント開いた時点で着地見込みを更新すると、55 万円の赤字が見えます。ここで手を打てば、少なくともあと 200 時間を無自覚に投入することは避けられます。

採算ラインの出し方

見積時に、この案件が赤字に転じる投入時間を先に計算しておきます。

採算ライン(投入時間)=(売上 − 外注費 − 経費)÷ 時間単価 =(1,500,000 − 0 − 50,000)÷ 5,000 = 290 時間

見積工数 240 時間に対して採算ラインは 290 時間。見積の 2 割超過で赤字です。あと何時間で採算割れか、を案件ごとに持っておくと、月次の投入時間を見るだけで 2 つ目の予兆が判定できます。請負の見積では、見積工数と採算ラインの間に 2 割以上の余裕があるかを確認する。これが、赤字を見積段階で減らす一番簡単な方法です。

見つけた後に、何から手を付けるか

採算が合わないと分かった案件で最初にやるのは、止めるか続けるかの判断ではありません。順番があります。

順対処中身効く予兆
1追加見積と作業範囲の調整見積外の作業を洗い出して追加見積を出す。応じてもらえない作業は次フェーズに切り出す見積外の作業
2要員の入替と投入配分時間当たり採算が高い案件に高単価の要員を回し、採算割れの案件は作業を終えられる最小人数にする時間当たり採算
3着地見込みの毎月更新残作業の見積を毎月引き直し、着地粗利を更新する。その数字を経営と経理が同じ表で見る消化率
4会計処理請負や受注制作で、原価総額が売上を超える可能性が高く金額を合理的に見積れるなら、受注損失引当金の計上対象になる全部
5次の見積に反映見積工数と実績の差と、超過の原因を記録して、同種案件の見積工数・単価・採算ラインに反映する再発防止

4 だけ補足します。企業会計基準適用指針第 30 号、収益認識に関する会計基準の適用指針の第 90 項は、工事契約について、工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合に、超過見込額から既に計上した損益を控除した残額を損失として処理し引当金を計上する、と定めています。第 91 項で受注制作のソフトウェアにも準用されます。可能性が高い、合理的に見積れる。この 2 つを根拠をもって判断できるのは、進行中に着地見込みを更新している会社だけです。詳しくは「受注損失引当金とは?」に書きました。

同じ赤字を繰り返さない

採算が合わない案件の多くは、着手時点の見積で決まっています。3 か月目に赤字が見えた案件を救うより、次の見積で同じ間違いをしないことのほうが、利益への影響は大きい。

  • 見積工数と実績を案件種別ごとに並べる。同種の案件は見積の 1.3 倍かかる、という自社の係数が分かれば次の見積に上乗せできる
  • 採算ラインを見積書の裏に書く。290 時間で採算割れ、と見えていれば値引き交渉の限度も決まる
  • 工数は日単位で記録する。月末にまとめて思い出して入力すると実態と 2 割から 3 割ずれ、消化率の判定が 1 か月遅れる
  • 月次の締め日を決めて守る。締めが翌月 10 日を過ぎると、予兆を見つけても手を打つ時間が残らない

見積精度の作り方は「赤字は見積の瞬間に決まっている」に、月次締めの運用は「月次締めの引き継ぎストレスを仕組みで消す」に書いてあります。

Excel で始める

案件ごとに見積工数・月別の投入時間・進捗率・売上・外注費・経費を持つ表があれば、3 つの予兆は Excel で見られます。弊社の CFO 監修 プロジェクト収支管理テンプレート はこの項目を案件と月で並べる形です。進行中の案件を全部入れて、消化率と進捗率の差が 20 ポイントを超えている案件が何件あるか数えてください。1 件もなければ、この記事は読まなくてよかった会社です。

工数を入力する人が 5 人、同時進行の案件が 10 件を超えると、月次の集計が締め日に間に合わなくなります。そこが専用ツールに移る時期です。LEEAD は工数と時間単価を掛けた人件費を案件月次に自動計上し、計画・実績・着地見込みを同じ表で更新します。営業とのやり取りなしで 30 日間無料で使えます。

まとめ

明日やることは 2 つです。進行中の案件について、投入時間の累計を見積工数で割り、進捗率と並べる。次の見積では、売上から外注費と経費を引いて時間単価で割った採算ラインを、見積工数の隣に書く。この 2 つを月次で続けている会社で、赤字が検収後に初めて分かることはありません。

出典

2026 年 9 月 29 日に確認。

よくある質問

Q. 採算が合わない案件とは、どういう状態ですか?
その案件にかけた人件費・外注費・経費が、案件の売上を上回っている、または完了時点で上回ると見込まれる状態です。売上は立っているのに、社員の投入時間に時間単価を掛けた人件費を足すと赤字、という案件は珍しくありません。不採算案件や採算割れ案件も同じ意味です。
Q. 赤字案件はいつ分かりますか?
月次で工数と外注費を締めて着地見込みを更新していれば、着地の粗利がマイナスに転じた月に分かります。検収後に初めて分かる会社は、締めが遅いか、実績を集計するだけで着地見込みを更新していないかのどちらかです。見積工数に対する消化率が進捗率を 20 ポイント以上上回ったら警戒してください。
Q. 採算ラインはどう計算しますか?
売上から外注費と経費を引き、時間単価で割ります。売上 150 万円、外注費 0 円、経費 5 万円、時間単価 5,000 円なら 290 時間です。これを超えた時間はすべて損失になります。見積時にこの時間を出しておき、毎月の投入時間と並べて見ます。
Q. 採算が合わないと分かった案件は途中で止めるべきですか?
止めるかどうかの前に、追加見積の交渉、作業範囲の調整、要員の入替を先にやります。請負契約で原価総額が売上を超える可能性が高く金額を合理的に見積れるなら、会計上は受注損失引当金の計上が必要になるので、経理と同じ数字を見て決めてください。止められない案件でも、次の見積に反映すれば同じ赤字は繰り返しません。
Q. Excel で採算の予兆は見られますか?
見られます。案件ごとに見積工数・投入時間・進捗率・売上・外注費・経費を月別に持つ表があれば足ります。弊社の CFO 監修テンプレートで始められます。工数を複数人が入力するようになって集計が締め日に間に合わなくなったら、専用ツールに移る時期です。
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塩塚 丁二郎

監修:塩塚 丁二郎

早稲田大学卒業後、野村総合研究所でSEとしてキャリアをスタート。2015年に独立し、IoTスタートアップ、音声アプリ開発を経て、PM支援・SI事業を軌道に乗せる。電子契約サービスCloudContractの実装、運用を手掛け、2020年からはプロジェクト会計・フォーキャストに特化したLEEADを運営。現在はDX・AI領域、カフェ店舗運営など、複数の事業を展開している。

株式会社ETVOX 塩塚 丁二郎