受注損失引当金とは?計上要件・計算方法・仕訳・工事損失引当金との違いを実務で解説
目次
受注損失引当金とは、受注済みの案件(プロジェクト)が完了までに赤字になる可能性が高く、その金額を合理的に見積れるときに、損失の見込額をあらかじめ負債として計上する引当金です。 建設業の「工事損失引当金」と同じ考え方で、システム開発やソフトウェアの受注制作でこの名称が使われます。
本稿では、受注損失引当金の意味と計上要件、計算方法と数値例、仕訳、工事損失引当金との違い、税務上の扱い、そして期末に慌てないための運用ルールを、プロジェクト管理会計の実務の視点で解説します。
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受注損失引当金とは
我が国では、建設業やソフトウェア開発会社を中心に、工事損失引当金や受注損失引当金(以下、「受注損失引当金」という。)が計上される会計実務があります。
ソフトウェアなどの制作を業としている場合、プロジェクト毎の採算予測において赤字を予測することは重要なポイントです。つまり、当月迄の実績に加えて、今後かかる原価を加えた金額を随時算出できることが求められます。
また、算出した金額(原価)が受注金額を上回ることは、そのプロジェクトが赤字になることを意味します。このような場合、期末において予想される損失に対して受注損失引当金を計上する必要があります。
受注損失引当金は将来の損失を見込む事であり、すでに損失が確定しているケースは、棚卸資産評価損として処理する必要があります。受注制作のソフトウェア制作費は、一般的にプロジェクト別(個別)原価計算により集計し、会計処理されます。
プロジェクト原価を把握するためには、ソフトウェア制作費(材料費、労務費、外注費、経費)が、どのプロジェクトに関連して発生したかを区別して集計できる事が重要であり、そのための事前準備が必要となります。
対象になる契約・ならない契約
| 契約の形 | 対象 | 理由 |
|---|---|---|
| 請負(一括請負のシステム開発、受注制作ソフトウェア、Web 制作) | 対象 | 売上が固定で、原価が増えるとそのまま赤字になる |
| 工事契約(建設・設備) | 対象(工事損失引当金) | 同上 |
| 準委任・SES(時間精算) | 原則対象外 | 稼働時間に応じて売上が立ち、原価総額が売上総額を超える構造になりにくい |
| 固定額の準委任、成果完成型 | 検討が必要 | 完了までの原価が契約金額を超える見込みがあれば請負と同じ |
| 保守・運用(月額固定) | 個別判断 | 工事契約・受注制作ソフトウェアの定めは直接及ばない。契約期間の原価が収益を超える見込みなら、引当金の一般要件で検討する |
4 つの計上要件
引当金は、次の 4 つをすべて満たすときに計上します(企業会計原則注解 18 の考え方)。受注損失引当金も同じです。
- 将来の特定の費用または損失であること:完了までに発生する原価の超過分という、対象の決まった損失である
- その発生が当期以前の事象に起因すること:見積の誤り、仕様変更の無償対応、スケジュール遅延など、原因がすでに起きている
- 発生の可能性が高いこと:残作業の見込みを踏まえて、赤字がほぼ確実である
- 金額を合理的に見積れること:残作業の工数と単価から、損失額を計算できる
実務でつまずくのは 3 と 4 です。「赤字になりそうだが、あといくらかかるか分からない」状態では、要件 4 を満たせず計上できません。つまり、受注損失引当金を正しく計上するには、案件ごとの原価実績と残作業の見込みを、期末時点で数字にできる仕組みが前提になります。
※ 受注損失引当金の具体的な事例紹介については、以下の記事もご覧ください。 【事例解説】2020年以降の受注損失引当金 - システム開発・ソフトウェア業界を中心に
受注損失引当金の計算方法と数値例
計算式は次のとおりです。
受注損失引当金 =(完了までの原価総額の見積 − 契約収益総額)− すでに計上した損失
ポイントは「すでに計上した損失」を差し引くことです。進行基準(履行義務の充足に係る進捗度に応じて収益を計上する方法)を採っている場合、進捗に応じて損失の一部がすでに損益に反映されているため、二重に計上しないように調整します。
数値例
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 契約金額(収益総額) | 10,000,000 円 |
| 期末までの発生原価 | 8,000,000 円 |
| 残作業の見積原価 | 4,000,000 円 |
| 完了までの原価総額 | 12,000,000 円 |
| 完了時の損失見込 | ▲2,000,000 円 |
原価回収基準(進捗度を合理的に見積れない場合):期末までの収益は発生原価と同額の 800 万円、原価 800 万円で、既に計上した損失は 0 円。したがって引当金は 200 万円。
進行基準(進捗度 = 発生原価 ÷ 原価総額 = 66.7%):期末までの収益は 1,000 万円 × 66.7% = 約 667 万円、原価 800 万円で、既に計上した損失は約 133 万円。したがって引当金は 200 万円 − 133 万円 = 約 67 万円。
どちらの方法でも、完了までに損益に反映される損失の合計は 200 万円で同じです。違うのは「引当金として先に計上する部分」の大きさだけです。
残作業の見積が金額を決める
上の例で分かるとおり、引当金の金額を決めるのは「残作業の見積原価」です。ここが 400 万円か 300 万円かで、引当額は 200 万円か 100 万円かに変わります。残作業の見積は、残りの工数(時間)× 時間単価 + 残りの外注費 + 残りの経費で積み上げます。工数の見積が甘いと引当金が過小になり、翌期に追加の損失が出ます。
案件ごとの原価実績と着地見込みの出し方は「プロジェクト収支管理とは?進め方・計算例・Excelとの違いを実務で解説」で解説しています。
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受注損失引当金の仕訳と表示
仕訳
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 期末に計上する | 売上原価(受注損失引当金繰入額) 2,000,000 | 受注損失引当金 2,000,000 |
| 翌期に損失が実際に発生した | 受注損失引当金 2,000,000 | 売上原価 2,000,000 |
| 見込みが減った・解消した | 受注損失引当金(減少分) | 売上原価(または受注損失引当金戻入額) |
繰入額は損益計算書の売上原価として表示します(同 第106項)。売上総利益の段階で損失が反映されるため、粗利率に直接影響します。
貸借対照表での表示
受注損失引当金は流動負債に計上します。同じ契約について仕掛品(未成工事支出金)と引当金の両方が計上される場合は、貸借対照表上で相殺して表示することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106項)。両建てにするか相殺するかは会社の表示方針によるため、監査人と確認して決めてください。
工事損失引当金・契約損失引当金との違い
| 名称 | 主に使う業種 | 根拠 |
|---|---|---|
| 工事損失引当金 | 建設業、設備工事 | 収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項 |
| 受注損失引当金 | システム開発、ソフトウェアの受注制作 | 同 第91項(受注制作のソフトウェアに工事契約の定めを準用) |
| 契約損失引当金 | 業種横断の総称として使う会社 | 同上 |
| 不利な契約に係る引当金(IFRS) | IFRS 適用会社 | IAS 第 37 号(オナーラス契約) |
考え方と計算方法は同じで、違いは呼び方です。2021 年 4 月 1 日以後に開始する事業年度から適用された収益認識に関する会計基準では、従来の工事契約に関する会計基準の工事損失引当金の定めが適用指針に引き継がれ(第90項)、受注制作のソフトウェアにも工事契約に準じて適用されます(第91項)。収益認識基準そのものの解説は「収益認識基準とは?工事進行基準に代わる会計基準を解説」をご覧ください。
税務上の扱い
法人税法上、引当金の繰入額は原則として損金に算入されません(貸倒引当金など法定の引当金を除く)。会計上は当期の費用でも、税務上は損失が実際に発生した期の損金になります。
そのため、申告の際は次の処理が一般的です。
- 繰入額を申告書で加算する(損金不算入)
- 会計と税務の差は将来減算一時差異となり、繰延税金資産を計上する。ただし回収可能性の判断が必要
- 翌期以降、損失が実際に発生した期に減算する
税務上の具体的な処理は、顧問税理士や監査人に確認してください。
受注損失引当金の運用方法について
請負契約の場合、提案の段階では受注できるか確実ではないため、提案活動に係る費用はプロジェクト別(個別)原価計算の対象には含めず、期間費用(販売費及び一般管理費)として処理されることが一般的です。
しかし、業界特有の慣習もあり、ソフトウェア開発の現場では、しばしば受注が確定する前の提案活動(プリセールス)の段階から基本設計や開発などの業務がスタートすることがあります。また、Webサイトの制作など一部の業界では検収直前に契約金額が決まるなど、受注の確定時点が明確に決まらないこともあります。
このような場合に、どこを開始時点としてプロジェクト別の原価集計を始めるべきか、ルールの策定に悩まれている会社も少なくないかと思われます。この点、個別原価計算を始めるタイミングとしては、大きく分けて以下の3つのケースが考えられます。
契約の種類・内容および制作・開発作業の開始時期等を勘案して社内ルールを決定しておくことが望まれます。
(ア) 契約締結日: ソフトウェアの性質上、契約締結までさほど時間がかからず、特段、開発等も必要ない場合には、契約締結日を開始時点とすべきと考えられます。この場合、契約書あるいは顧客からの発注書が客観的な外部証憑となります。
(イ) 顧客に見積書を提出し、内諾が得られた日: ソフトウェアの性質上、顧客要望のヒアリング、フィット&ギャップ分析、要件定義書の作成等の作業をスタートしないとプロジェクト全体の総工数を見積れないケースもあります。このような場合、少なくとも顧客との間で仕様の打ち合わせが終わり、概算見積額等について大筋で合意が得られた時点を開始時点とすべきと考えられます。もしくは社内承認を経た(概算)見積書の発行日を原価計算スタートの時点とする方法も考えられます。
(ウ) 社内決裁日: 業界特有の慣行として、仕様の変更や追加要望等が繰り返され、契約金額の確定が検収日直前になり、契約締結(正式見積書の発行)も請求書提出と同じタイミングとなるようなケースもあります。このような場合、制作・開発をスタートすることに関する社内の承認日等を原価計算スタートの時点とする方法が考えられます。
要件としては、
- 原価総額が受注総額を超える可能性が高い場合
- 超過額を合理的に見積もることができる場合
になります。
期末時点で、全てのプロジェクトにおいての「原価実績 + 将来の予定発生原価 = 着地原価」を算出すること、特に、「将来の予定発生原価」をしっかりと把握することが重要です。
そのため、原価実績を早期に把握し、将来の外注費のみでなく社内の労務原価を見直しするフローが必要です。
期末に慌てないための月次ルール
受注損失引当金の計上は期末(四半期末)の作業ですが、その数字は月次の運用で決まります。次の 4 つをルールにしておくと、期末に「あといくらかかるか分からない」状態になりません。
- 工数は日次で記録し、月次で締める。 労務原価は工数からしか出ません。月末にまとめて思い出すと 2〜3 割ずれます
- 外注費は発生ベースで案件に紐づける。 請求書が来てから計上すると、期末時点の発生原価が過小になります
- 残作業の見込み工数を毎月更新する。 担当者に「あと何時間か」を聞き、着地原価を計算し直します
- 見積工数と実績の差が一定の閾値(目安として 20%)を超えた案件は、期末を待たずにレビューする。 引当金の候補を早く見つけ、値上げ交渉やスコープ調整の余地があるうちに手を打ちます
月次締めの順番と粒度の決め方は「月次締めの引き継ぎストレスを仕組みで消すプロジェクト収支管理」で解説しています。
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プロジェクト毎の売上・人件費・外注費・経費・稼働工数といった数値情報をプロジェクト毎に紐づけて管理することで、赤字プロジェクトの未然防止や要員配分の最適化を行うことができます。
受注損失引当金の計算に必要な「案件ごとの原価実績」と「残作業の見込み」を月次で持てるため、期末に集計を始めるのではなく、赤字の候補を月の途中で見つけられます。独自のエクセルフォーマットでの原価集計、レポート作成、部署をまたいだ数字の集約といった手間から解放され、誰でも同じ数字を見られる状態になります。
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まとめ
- 受注損失引当金は、受注案件の赤字見込額を、その原因が起きた期にあらかじめ負債計上する引当金
- 計上には 4 つの要件があり、実務では「金額を合理的に見積れること」が最大の壁になる
- 引当額 =(完了までの原価総額 − 契約収益総額)− 既に計上した損失。残作業の見積が金額を決める
- 仕訳は売上原価への繰入と、損失発生時の取り崩し。税務上は原則損金不算入
- 工事損失引当金との違いは呼び方だけ。考え方と計算は同じ
- 期末に慌てないためには、工数の日次記録、外注費の発生ベース計上、残作業見込みの月次更新が前提
本記事は上場企業 CFO の監修のもと作成していますが、会計処理と税務上の取扱いは会社の状況によって異なります。実際の計上にあたっては、監査人・顧問税理士にご確認ください。
関連する用語(採算・原価・収益認識・工数)の定義は「プロジェクト会計 用語集」にまとめています。
よくある質問
- Q. 受注損失引当金の仕訳はどうなりますか?
- 計上時は「(借方)売上原価(受注損失引当金繰入額)/(貸方)受注損失引当金」です。翌期以降に実際の損失が発生したら「(借方)受注損失引当金/(貸方)売上原価」で取り崩します。赤字の見込みが解消した場合は、残額を戻し入れます。
- Q. 工事損失引当金と受注損失引当金の違いは何ですか?
- 考え方と計算方法は同じで、業種による呼び方の違いです。建設業では「工事損失引当金」、システム開発やソフトウェアの受注制作では「受注損失引当金」と呼ぶのが一般的です。総称として「契約損失引当金」を使う会社もあります。
- Q. 準委任契約(SES)の案件も対象になりますか?
- 原則として対象になりません。準委任は稼働時間に応じて収益が立つため、原価総額が収益総額を上回る構造になりにくいからです。ただし、固定額の準委任や成果完成型で完了までの原価が契約金額を超える見込みがある場合は、請負と同様に検討が必要です。
- Q. 受注損失引当金は税務上、損金になりますか?
- 法人税法上、引当金の繰入額は原則として損金に算入されません。会計上は費用でも、税務では損失が実際に発生した期に損金になるため、申告時に加算し、繰延税金資産(回収可能性の判断が必要)を計上するのが一般的です。具体的な処理は顧問税理士や監査人に確認してください。
- Q. 受注損失引当金はいつ取り崩しますか?
- 引き当てた損失が実際に発生した期に、発生額に応じて取り崩します。原価の見直しで赤字の見込額が減った場合や、追加の売上で赤字が解消した場合は、四半期末ごとの見直しで減額または戻し入れます。
監修:古谷 幸治
上場企業CFO。不動産デベロッパー・建設業・CM映像制作業を経て、2002年にITパッケージシステム会社「エンプレックス」に参画し取締役CFOに就任。2016年、大手芸能プロダクションの経営企画を経て株式会社プロジェクト・イノベーションを設立。不動産建設業の会計知識を土台に、映像制作・ソフトウェア開発/SI・ITサービス業での経営管理経験から「プロジェクト管理会計」の手法を体系化。コンサルティング先は200社超。