【事例解説】2020年以降の受注損失引当金 - システム開発・ソフトウェア業界を中心に
目次
受注損失引当金とは、将来発生が見込まれるプロジェクトの赤字を、あらかじめ負債として計上するものです。長期のシステム開発やソフトウェアの受注制作など、契約期間中に赤字(売上原価が契約金額を上回る)が確実に見込まれる場合に、その損失見積額を当期の費用として計上します。
これは、会計上の「発生主義・期間損益計算の原則」に基づく処理であり、将来の損失であっても、その原因が当期にあれば当期に計上する必要があるためです。
会計処理のポイント
• 計上のタイミング: • 契約締結時点で赤字が見込まれる場合:その時点 • 契約進行中に赤字見通しとなった場合:判明した期
• 金額:将来の損失見込額を合理的に見積もる
• 表示:貸借対照表上は流動負債
• 日本基準(JGAAP):工事契約会計基準等で規定
• IFRS(国際会計基準):オナーラス(費用過大)契約に対する引当金として処理
2021年4月からは、新収益認識基準の適用により、受注損失引当金の表示や計上に変化が生じています。従来は、仕掛品と相殺する形で引当金を計上するケースもありましたが、新基準では負債側に引当金を明示する形となり、赤字プロジェクトがより明確に財務諸表に表れるようになりました。
【2020年以降】国内企業の主な計上事例
ここでは、2020年以降に国内企業で実際に受注損失引当金が計上された主な事例を、会計処理と開示の背景、業績への影響という観点から見ていきます。
1. フライトホールディングス(2020年3月期 第3四半期)
• 計上額:1億64百万円
• 事業:システム開発(子会社:フライトシステムコンサルティング)
• 案件:大型の基幹システム開発案件
• 原因:人員体制の整備遅れ等による開発スケジュールの遅延、工数増
• 会計処理:第3四半期の売上原価に繰入
• 開示と業績への影響: • 「受注損失引当金の計上に関するお知らせ」をリリース • 当期業績への影響は軽微(将来の保守収入を含め、契約全体で収益化を見込む)
2. Ubicomホールディングス(2020年3月期)
• 計上額:5,197.5万円
• 事業:ITサービス
• 案件:システム開発案件
• 原因:品質確保のための追加作業
• 会計処理:営業損失(売上原価増加)
• 開示と業績への影響: • 連結決算短信に反映、特別損失とはせず • 当期純利益を押し下げ(約5千万円の費用増) • 投資有価証券の評価損など他の特別損失も計上、総合的な影響を開示
3. シリコンスタジオ(2020年11月期)
• 計上額:65百万円
• 事業:ゲーム開発支援
• 案件:子会社でのゲーム用アセット開発案件
• 原因:開発難航、外注費などコスト増大
• 会計処理:営業損失(費用)
• 開示と業績への影響: • 「受注損失引当金繰入額の計上及び通期連結業績予想と実績値の差異に関するお知らせ」を公表 • 営業利益が予想比▲700万円(▲7.7%)減少、要因として引当金計上を説明
(参考)www2.jpx.co.jp
4. ポエック株式会社(2022年8月期)
• 計上額:2億78百万円(繰入増加額)
• 事業:環境設備事業等
• 案件:詳細不明(大型案件の採算悪化の可能性)
• 会計処理:営業費用内で計上(キャッシュフロー計算書上の調整科目から判明)
• 開示と業績への影響: • 決算短信で開示 • 営業利益2.7億円、当期純損失▲0.23億円と赤字転落 • 貸倒引当金繰入100百万円も特別損失に計上
(参考)www.puequ.co.jp
5. セゾンテクノロジー(2024年3月期)
• 計上額:第2四半期 1,272百万円、第4四半期 532百万円(累計1,805百万円)
• 事業:システムインテグレーション(流通ITサービス事業)
• 案件:大規模プロジェクト
• 原因:想定以上の作業負荷
• 会計処理:売上原価に繰入
• 開示と業績への影響: • 「受注損失引当金の追加計上に関するお知らせ」を公表 • 通期業績予想は修正不要(自社パッケージソフトの売上増、コスト見直しで相殺) • 第2四半期時点で業績予想を下方修正、投資家に周知済み
(参考)files.saison-technology.com
受注損失引当金と管理会計:経営へのインパクト
受注損失引当金の計上は、財務会計上の処理にとどまらず、管理会計にも大きな影響を及ぼします。
• プロジェクト採算の可視化:赤字プロジェクトが早期に顕在化し、経営陣は各案件の収支見直しを迫られる
• 早期警報装置:プロジェクトの進捗管理を強化し、問題の早期発見・対応を促す
• 経営判断の迅速化:プロジェクト継続/中止、契約見直しなどの意思決定をサポート
• 予算管理の見直し:年度予算や業績管理指標への影響を考慮し、リソース配分の再優先付け、コスト削減などの調整策が必要
• 内部統制の強化:損失見込みを適時に認識・計上できる体制(原価管理・プロジェクト管理と経理の連携)が、健全なガバナンスに不可欠
※ 受注損失引当金に関する基礎知識については、以下の記事も是非ご参照ください。 受注損失引当金の基礎知識と運用方法
開示のポイント:なぜ公表されるのか?
受注損失引当金の事例が公表される主な理由は、以下の通りです。
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業績予想との差異:引当金計上で利益が大きく変動する場合、適時開示ルールに基づき投資家への説明が必要
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損失金額の重要性:金額が大きい場合や特別損失扱いとなる場合は、プレスリリースで公表
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投資家・株主への説明責任:経営課題としての認識、対応策の説明
これらの開示は、単なる数値報告ではなく、経営陣の意思決定プロセスや今後の見通しを示すものであり、投資判断に重要な情報となります。
まとめ:会計と経営を結ぶ指標
2020年以降の事例を見ると、システム開発やソフトウェア業界を中心に、様々な企業で受注損失引当金が計上されています。各社は、損失見込みを早期に認識・開示し、プロジェクト管理の強化や経営戦略の見直しにつなげています。
受注損失引当金は、会計上の処理であると同時に、プロジェクト管理と経営統制の改善を促す重要な指標です。適切に計上・開示し、損失を最小化しながら企業価値を高める取り組みが、各社の事例から見て取れます。
監修:塩塚 丁二郎
早稲田大学卒業後、野村総合研究所でSEとしてキャリアをスタート。2015年に独立し、IoTスタートアップ、音声アプリ開発を経て、PM支援・SI事業を軌道に乗せる。電子契約サービスCloudContractの実装、運用を手掛け、2020年からはプロジェクト会計・フォーキャストに特化したLEEADを運営。現在はDX・AI領域、カフェ店舗運営など、複数の事業を展開している。
株式会社ETVOX 塩塚 丁二郎